「後味の悪い映画オススメ」などで検索すると必ずといっていいほど名前があがる鉄板鬱映画の中でも、これほど長く独特で、人間の醜さを表現している映画はないでしょう。

色々と規制がうるさい日本で劇場公開されたのはすごいですね。もちろん批評がすごかったらしいですが、これを映画館の大スクリーンで見る事が出来ればかなりの衝撃度だったでしょう(自宅でDVDを普通のテレビで見ただけでもすごかったですし)

そんなトラウマ級後味の悪い鬱映画「ドッグヴィル」について、ご紹介させて頂きます。

犬の町 ドッグヴィル

タイトル通り、舞台は大恐慌時代のロッキー山脈の廃れた鉱山町「ドッグヴィル(犬の町)」で住人はせいぜい20人程度の小さな小さな町、外の人間とはあまり関わりを持とうとしない典型的な閉鎖的な人々が暮らしています。

設備もあまり充実していなく(こういう時代だから仕方ないとは思いますが)前向きな言葉を使えば「慎ましい生活」を過ごしていますし、それぞれ小さな欠点はありますが比較的に普通の人達です。

物語はそんな町に突如ギャングに追われている女性が逃げ込んできて、道徳を住人に広めるのを夢としている善良な青年が彼女を匿った事から始まります。

道徳を広めたい青年と、皆に受け入れて貰いたい女性

青年は作家を目指しながら自分の道徳をたくさんの人々に広めるのが夢で、定期的に町の住人を集めては会合を開き自分の意見を住人達に聞かせていたが、ほとんどの住人は彼の話に真面目に耳を傾けようとはしません。

そんな時にギャングに追われている女性が逃げ込んできて助けを乞われたため、彼女を救うのは道徳だと思い、更に彼女を利用して町の人々に道徳心を持って貰うために住人達に「彼女(見知らぬ人)を助けるのは町への貢献になる」と説得したのだが、住人達は彼の話を信じられず、そこで彼は女性に自分が善良な人間なのだと住人達にアピールする事をすすめました。

下手に町の外に出ると自分を追っているギャングに捕まってしまうかもしれないし、他に行き場のない彼女はその提案を受け、住人達のために自分が出来るお手伝いをするようになります(ちなみに青年は2週間彼女の様子を見て、受け入れるかどうかを期限が来たら投票し誰か1人だけでも嫌だとなれば追い出すと住人達と約束をしました)

最初は警戒していて何もさせてくれない住人達ですが、別にやらなくても困らないけどやって貰ってもいい程度のお仕事を彼女に任せるようになり、徐々に彼女は住人達に受け入れられるようになりますので、最初の約束である2週間後の投票では万一一致で彼女を受け入れる事になります。

自分の意見や気持ちが住人達に伝わった事を喜ぶ青年と、住人達に受け入れて貰えた事を喜ぶ女性は本当に幸せそうでした(過去形)

幸せな日々はそう長くは続かない

暫くは住人達も青年も女性も幸せそうに日々を過ごしていきます。最初は上手く出来なかった色々な作業も慣れてきたのか女性はスムーズに出来るようになってますし、徐々に住人達の中に友人と呼べる人物が出来るようになります。

住人達も別にやらなくても困らない仕事を自主的にやってくれる女性に、彼女の存在の必要性を感じて彼女に優しくなっていきますし、この状態に青年はとても満足そうです。

ですが、運命の歯車が狂い始めたのは7月4日の独立記念日。警官が町に現れ、女性は銀行強盗の指名手配犯というポスターを貼っていきました。

銀行強盗があったという日時から見て女性は無実だと住人達はすぐに分かったのですが、ここで余計な事をしたのは調子に乗っている青年でして、彼は「女性を匿う事のリスクが大きくなった為の交換条件」として、彼女に今まで以上の労働の強制と、賃金(彼女はお手伝いをした際に僅かならば報酬を貰っていました)を更に低くする事を提案しました。

この辺りから物語は坂道を転がり落ちていき始めます。最初は自主的に雑用をしていた女性も、だんだんそれが強制的なものに変わっているのに気付き、不快感を覚えるものの青年の口車に乗せられてそれを受け入れます。

露わになっていく住人達の欲望・本性

雑用の量が多くなり、それに対応しきれない女性はミスを繰り返すようになり(どう見ても指示される雑用が出来る量を越えています、1度に3つ以上の別々の事を強要されたりと)、住人達はそんな彼女に八つ当たりするようになります。

その行為は日時が流れるにつれエスカレートしていき、子供達からもバカにされるようになります、これではまるで奴隷でしかありません、これがこの町の本性です。

挙句の果てには大人しくしないと警察に突き出すぞ、と恐喝してレイプするようになり、女性の住人からはいびられ、男性の住人からは体を強要され、彼女の居場所はすでにこの町にはどこにもありませんが、青年の言葉と存在に耐えて耐えて……限界が来た時にはすでにもう遅く、彼女は逃げる事すら出来なくなりました。

そして……その後起こる事や、住人達の醜い本性、エスカレートするいびりに泣き崩れるしかない女性のやるせなさは実際に鑑賞して確かめて下さい(これ本当に長いのでかなり省かせて頂きました)

容赦ない人間の醜さの描写に並ぶこの作品の特徴

上記の理由によりこの作品を鬱映画として選ばせて頂きましたが、もう1つこの作品には特徴がありまして、それはまるで舞台劇のような撮り方をしているという点です。

大きなステージに最低限の家具と洞窟の岩、ベンチ、壁の一部だけがセットされており、他の部分はチョークのようなもので書かれているだけというシンプルな構造で、すべてのシーンはこれだけで撮影されています。

そして構成がプロローグ、第1章~第9章、終幕というように区切られていて、そのたびに画面には今何章に入ったよーみたいな感じでどの章に入ったのかを短い文章と共に表示されますので、本当に舞台劇のようですね。

こういう作品は他には見た事がなかったので最初はちょっと違和感がありましたが、俳優さん達の演技がとても良かったので「あ、ここにはあれがあるのか」と想像がしやすかったです。

ちなみにこれ、主演はあの(どの?)ニコール・キッドマンなんですよ。彼女が様々な男たちにレイプされるという事が評判と批評を呼んだらしく、それでタイトルだけでも知っているという方もいらっしゃるようです。

では最後に。この作品は頑張って平穏を手に入れるも人間達の身勝手さにより惨めな姿になり、そしてそんな彼らをどう思うのかがどんな意味なのかを(ややこしいですね)実際にあなたの目で見て考えてみて下さい、傲慢とはどういう事なのか。